人事労務部門は従業員から寄せられる問い合わせに対して「規程の確認」をするケースが少なくありません。
「結婚した際の特別休暇は何日か」「副業を始めるための申請フローはどうなっているか」「育休中の社会保険料はどうなるのか」――。これらの質問は、就業規則や社内イントラを精読すれば解決できるものですが、多くの従業員にとっては「直接聞いたほうが早い」という心理が働き、結果として人事担当者の貴重な工数が奪われています。
このような反復的かつ定型的な業務は、属人化を招くだけでなく、人為的な回答ミスのリスクがあります。
本記事では、Googleが提供するAIツール「NotebookLM」を活用し、”社内ルールの問い合わせ業務”を解決する「社内規程専用のAI相談窓口」の構築方法について解説します。
NotebookLMとは?
NotebookLMは、Googleが開発したAIリサーチアシスタントです。ChatGPTやGeminiの一般公開版とは異なり、インターネット上の膨大な情報を学習した結果を回答しないのが最大の特徴です。

まずはNotebookLMの特徴を解説します。
資料を起点とするAIリサーチツール
NotebookLMは、ユーザーがアップロードした特定の資料(PDF、Googleドキュメント、テキストファイル等)を知識源として扱います。
そのため、人事労務業務においてはAIに自社固有の就業規則を理解させた上で、その範囲内でのみ回答が得られるということです。いわば、自社のあらゆる規程を暗記し、瞬時に検索して提示してくれる「専属のデジタル人事アシスタント」を構築できるツールと言えます。
参考:Google「NotebookLM」
なぜNotebookLMの「正確性」が担保されるのか
NotebookLMの最大の特徴は、AIの回答をユーザーが用意した資料だけに厳格に紐付ける「ソース・グラウンディング(Source-grounding)」という技術にあります。これは一般的なAIのように不確かな知識で推測するのではなく、「提出された資料のこの部分にこう書いてある」という事実のみを抽出して回答する仕組みです。
内部では「RAG(検索拡張生成)」というシステムが働いており、ユーザーが質問するとAIは複数の資料(例えば就業規則と賃金規程など)の中から関連する記述を瞬時に探し出し、それらを矛盾なく一つの回答にまとめ上げます。
さらに、回答の中には必ず参照元を示すリンクが表示され、そこをクリックするだけで実際の資料の該当箇所をすぐに確認できるため、AIの回答を鵜呑みにすることなく、人間が簡単に最終的な裏付けを取れるよう設計されています。
NotebookLMのセキュリティ
人事労務の情報は、企業の機密情報や従業員の権利に関わる非常にセンシティブなデータです。NotebookLMの使用を検討する上で、セキュリティは避けて通れません。ここでは、NotebookLMのセキュリティについて解説します。
AIのデータ学習として使用されない
NotebookLMに読み込ませた資料やAIとのやり取りは、あくまで「その場限り」の参照に限定されます。GoogleがAIの精度を上げるための「学習データ」としてデータを使用することはありません。
社外秘の就業規則や独自の内部マニュアルなどをアップロードしても、その内容が外部に漏れたり、他社のAIの知識として取り込まれたりするリスクはないということです。
Google Workspaceとしての共有保護
企業で有料のGoogle Workspaceを利用している場合、NotebookLMは管理者の設定により共有権限が制御できるようになっています。そのため、有料のGoogle Workspaceでは、共有機能を使う際に管理者が権限を付与している人しか閲覧できないようになっています。
一方で、個人用アカウントのGoogleは、共有機能の設定で閲覧制限をかけることはできるものの、権限を「リンクを知っている全員」に設定してしまうと、リンクを知っている人に資料が公開されてしまう恐れがあります。
有料のGoogle Workspaceでは、有料のGoogle Workspaceでは、管理者の設定によって「リンクを知っている全員(社外)」への共有をシステム上で一律に禁止(制限)することができます。そのため、従業員のヒューマンエラーによる意図しない情報漏洩を未然に防ぐことが可能です。

NotebookLMを利用した社内AI相談窓口の構築方法
構築にプログラミングや複雑な設定は不要です。以下の3ステップで完了します。
ステップ1:資料(ファイル)の整理
まずは、AIに読み込ませる資料を整理します。
- 就業規則(本則)
- 賃金規程
- 育児・介護休業規程
- 慶弔見舞金規程
- 福利厚生ガイドブック
- 社内FAQ(過去の問い合わせ履歴)
古いバージョンの規程を混在させないよう、フォルダ管理を徹底してください。改定時は必ず旧ファイルを削除し、最新版のみをソースにします。
2026年4月現在では以下のファイル形式に対応しています。
- 音声ファイル: MP3、WAV など
- コピーして貼り付けたテキスト
- Google ドキュメント
- Google スライド: 最大 100 枚のスライド
- Google スプレッドシート: 現在、ファイルは 10 万トークンに制限されています。
- 画像:サポートされているファイル形式: avif、bmp、gif、heic、heif、ico、jp2、jpe、jpeg、jpg、png、tif、tiff、webp
- Microsoft Word(docx)、テキスト(txt)、マークダウン(md)、PDF ファイル(pdf)、CSV(csv)、PowerPoint(pptx)ファイル
- ウェブの URL
- ePub ファイル
- 公開されている YouTube 動画の URL
ステップ2:新規作成とファイルをアップロード
資料が用意出来たら、NotebookLMを開き、「ノートブックを新規作成」をクリックします。

ファイルをドラッグ&ドロップしたり、Googleドライブから選択などして就業規則をアップロードします。

ステップ3:プロンプト(指示文)を入力する
NotebookLMの中央下部にある入力スペースにプロンプト(指示文)を入力します。

例えば「入社3年目の従業員の休職期間を教えてください」と入力すると、自社の就業規則に沿った回答がNotebookLMから出力されます。

NotebookLMを利用した運用例
社内規則をアップロードしたNotebookLMが、実際の現場でどのように機能するか、具体的なケースを見てみましょう。
事例A:特別休暇の照会
- 従業員の質問: 「来月結婚するのですが、特別休暇は何日間取得できますか?また、取得にあたっての条件はありますか?」
- AIの回答: 「ご結婚おめでとうございます。就業規則第〇条(特別休暇)に基づき、結婚休暇として5日間が付与されます。取得条件は、入籍または挙式の前後6ヶ月以内である必要があります。申請は社内システムの『特別休暇申請』から行ってください。」
事例B:副業申請のプロセス
- 従業員の質問: 「週末に個人でプログラミングの副業をしたいと考えています。手続きを教えてください。」
- AIの回答: 「副業・兼業規程第〇条により、事前に会社への届出と承認が必要です。まずは『副業許可申請書』を作成し、所属長を経由して人事部へ提出してください。なお、競合他社での勤務や本業に支障が出る形態は禁止されています。」
NotebookLM導入における留意点
NotebookLMは非常に便利なツールである一方、すべてをAIに任せることはできません。最終的には人間の判断やフォローが必要になります。ここでは、NotebookLM導入における留意点を解説します。
「AIは一次回答」という位置づけの徹底
NotebookLMはアップロードされた資料(ソース)を基にするため、ChatGPTやGeminiなどに比べて信頼性は高いですが、それでも解釈の誤りや情報の見落としが完全になくなるわけではありません。
そのため、出力された回答はあくまで「一次回答」として扱い、最終的な確認は必ず人間が行うというルールを徹底する必要があります。
AIは作業のスピードを劇的に上げますが、その質を最終的に決定し、責任を負うのはあくまで人間であることを組織全体で共有することが重要です。
メンタルケアの補足
NotebookLMはテキスト情報の整理や分析には非常に優れていますが、例えば「退職の仕方について」といった質問の背後には、深刻な悩みが隠れていることがあります。
AIで完結させすぎず、「直接相談したい方はこちら」という導線を常に確保し、従業員との接点を失わない工夫が求められます。
最終的な判断、決断は人
法律の解釈が分かれる部分や会社の裁量権が絡む事項については、最終的に人の判断が必要です。特に労務問題や契約の解釈などでAIを利用する場合、回答はあくまで「規程集の参照補助」であり、最終的な法的結論ではないことを利用者に周知しなければなりません。
重大な判断が必要なケースでは、AIの回答を法的根拠としてそのまま運用するリスクを回避する必要があります。
よくある質問
Q1. 社外秘の就業規則をアップロードしても、AIの学習データとして利用される心配はありませんか?
NotebookLMは、入力されたデータがモデルの学習に利用されない仕組みになっています。 一般的な生成AI(ChatGPTの無料版など)とは異なり、NotebookLMはユーザーが提供したソース資料の範囲内でのみ回答を生成することを前提としています。
企業の機密情報や独自の社内規程をアップロードしても、基本的にはそれが外部に漏洩したり、他社のAI回答に流用されたりすることはありません。ただし、NotebookLMのノートブック自体を外部のユーザーと共有設定にした場合はこの限りではありません。不用意に個人情報をアップすることは避けましょう。
Q2. AIが間違った回答(ハルシネーション)をして、トラブルになるリスクはありませんか?
NotebookLMは根拠資料(ソース)を明示するため、他のAIに比べて極めて高い信頼性を持ちますが、リスクをゼロにするものではありません。 回答には必ず参照元となった資料の箇所が示されるため、ユーザー自身で正誤を確認しやすくなっています。
運用上は、AIの回答をあくまで「一次回答(目安)」として位置づけ、重要な判断については「最終的に人事担当者の確認が必要」というルールを徹底することが重要です。
Q3. AI相談窓口を導入することで、人事担当者の業務はどう変わりますか?
定型的な問い合わせ対応が減り、より付加価値の高い「人間にしかできない業務」に注力できるようになる可能性があります。
「特別休暇の日数」や「副業の申請フロー」といった、資料を読めばわかる繰り返しの質問対応をAIが24時間代行します。
これにより、人事担当者は従業員のキャリア開発、メンタルケア、組織文化の醸成といった人間ならではの配慮や高度な判断が求められる業務に時間を割くことが可能になります。
まとめ
人事部門がNotebookLMを活用した「AI相談窓口」を導入すると、反復的な問い合わせ対応を効率化することができます。自社の規程を直接読み込ませることにより、正確な回答を提供できるのが最大の強みです。
また、入力データがAIの学習に利用されない高いセキュリティ性を備えており、機密情報の取り扱いも安心です。
ただし、AIはあくまで「一次回答」を担うアシスタントであることを忘れてはなりません。複雑な法的判断や従業員のメンタルケアといった、最終的な責任と配慮が求められる領域では人間の介在が不可欠です。
AIと人間が適切に役割を分担することで、人事担当者はより付加価値の高い業務へ注力できるようになるでしょう。
人事労務のAI活用ではセキュリティが最も重要です。Google Workspaceであれば、NotebookLMで参照させる就業規則や人事データのアクセス権限を厳格に管理できるほか、法人向けプラン(Gemini for Google Workspace)を通じた利用であれば、入力データがモデルの学習に使われることは一切ありません。
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