「配偶者が離職したので扶養に入れたい」「子どもが生まれた」など、従業員や顧問先から「家族を扶養に入れたい」という連絡が随時来ていることでしょう。
扶養の加入手続きは、人事労務担当者や社労士にとっては個別の状況のヒアリングや複雑な要件確認など、何度もやり取りする場合もあるでしょう。
そこで本記事では、生成AIを活用して扶養追加手続きの「初期対応メールの作成」から「個別状況に応じた必要書類の判定」までを生成AIを使用して効率化する事例を紹介します。
本記事でご紹介する手順を実行する場合は「法人プランで利用」するか、入力したデータをAIの学習(モデル改善)に使われないようにする「オプトアウト設定」をしたうえで行ってください。
- 初期対応の自動化による業務効率化: 生成AI(Geminiなど)を活用することで、従業員からの「家族を扶養に入れたい」という要望に対し、個々の状況に応じたヒアリングや案内メールの作成にかかる手間と思考時間を大幅に短縮できます。
- 複雑な条件に基づく必要書類の的確な判定: 提出された申請書や最新の公的機関のルールをAIに読み込ませることで、別居や失業給付の有無などの複雑な要件から、個別に必要な添付書類や実務上の注意事項を正確に洗い出せます。
- 実務利用におけるセキュリティと最終確認の徹底: 安全に運用するためには、マイナンバー等の個人情報のマスキングや法人向けプランの利用といったセキュリティ対策が必須であり、AIの誤答(ハルシネーション)や法改正の未反映を防ぐための「人間の目による最終確認」が不可欠です。
従来の手続きとAI活用の比較
扶養追加の手続きは個別性が高く、その都度提出書類が異なる場合があります。そこで生成AIを導入することで、以下のように業務を大幅に短縮できました。
| 業務プロセス | 従来の対応(手作業) | 生成AIを活用した対応 | 削減できる手間 |
| 初期対応 | 状況をヒアリングし、一から返信文を作成 | メール文を基に、最適な返信文を自動生成 | 文章作成の思考時間・タイピング時間 |
| 書類の判定 | 申請書やメールの返信を見て、健保の公式サイトで要件を都度確認 | 内容をAIに入力し、必要な添付書類と注意事項をAIにリストアップさせる | 複雑な要件確認・書類の洗い出し時間 |
生成AIを使った「初期対応メール」の自動作成
従業員から「配偶者が離職したので扶養に入れたい」など、扶養追加の第一報を受けた際の返信メールを作成します。
ここではGoogleの生成AIである「Gemini」を使った事例をご紹介します。
操作手順
- ブラウザでGeminiのチャット画面を開きます。
- 以下のプロンプトをコピーし、入力欄に貼り付けます。
- 被扶養者追加申請書を添付
- [ ]で囲まれた部分(ご自身の立場や、相手の状況)を書き換えて送信します。
被扶養者追加申請書のフォーマットは下記からダウンロードができます。
【プロンプト例】
#前提条件
あなたは経験豊富な人事労務の専門家です。人事担当者からの依頼に対し、正確・丁寧・実務的で分かりやすいサポートを提供してください。
#背景
従業員から[例:配偶者を扶養に入れたい]とメールがきました。
#主なタスク
従業員への案内メール作成:扶養追加手続きに必要な情報(配偶者の年収見込み、失業給付の有無、同居・別居など)を不足なくヒアリングする返信メールの作成をしてください。
添付の「被扶養者追加申請書」に必要事項を記入し返信するよう伝えてください。
実務上の注意点の提示:マイナンバー取扱いの注意、失業給付受給中の扶養外れリスクなど、人事が先回りして案内すべきリスクを助言する。
#出力ルールの指定
・メール文面は、そのままコピーして使えるようにプレーンテキストで出力すること。
・専門用語はなるべく平易な言葉に言い換えるか、補足説明を入れること。
・回答の最後には必ず「人事労務担当者へのワンポイントアドバイス」を添えること。
・マイナンバーなどの特定個人情報の直接的な送信を促すような案内文は絶対に作成しないこと。
ポイントとしては、プロンプトに「実務上の注意点の提示」を加えることです。そうすることで、被扶養者追加申請書に記載がないような注意事項や伝え漏れが防げる可能背があります。
なお、直接メールで内容を聞きたい場合は、『添付の「被扶養者追加申請書」に必要事項を記入し返信するよう伝えてください。』という一文を削除すれば直接メール文を出力してくれます。
【AIの回答】
人事担当者様のご要望に基づき、従業員へそのまま転送・コピーして使用できる案内メールの文案と、人事としての実務上の留意点を作成いたしました。
件名:【手続きのご案内】配偶者様の健康保険(扶養)追加について
〇〇さん
お疲れ様です。人事部の[あなたの氏名]です。
配偶者様を扶養に追加されたい旨、承知いたしました。 お手続きを進めるため、状況の確認と書類のご提出をお願いいたします。
添付いたしました「被扶養者追加申請書」のフォーマットに必要事項をご記入のうえ、本メールへの返信にてご提出をお願いいたします。
【ご記入時の確認ポイント・注意事項】
健康保険の扶養に入るためには、いくつかの条件を満たす必要があります。特に以下の点にご注意のうえ、ご記入をお願いします。
- 年収見込額について
- 扶養に入る日以降の「向こう1年間の収入見込み」が130万円未満であることが条件となります(※交通費や一部の非課税収入も含まれます)。過去の年収ではなく、今後の見込み額をご記入ください。
- 失業保険(雇用保険の基本手当)の受給について 配偶者様が失業保険を受給される予定がある場合、日額が一定額(原則3,612円)以上になると、その受給期間中は扶養に入ることができなくなります。受給の有無や予定について漏れなくご記入ください。
- 同居・別居について 別居されている場合は、仕送り(送金)による生計維持の確認が必要となります。該当する場合は、送金証明書などの追加書類をお願いすることがございます。
- マイナンバー(個人番号)の取り扱いについて【重要】 マイナンバーは情報漏洩防止のため、本シートやメール本文には絶対に記入(入力)しないでください。別途、所定の安全な方法にて取得の手続きをご案内いたします。
現在の状況をできる限り細かく記載していただくことで、追加で必要となる証明書類などを過不足なく適切にご案内することができます。 ご不明な点や、判断に迷う点がございましたら、遠慮なくこのメールにてご質問ください。
まずは申請書のご提出をお待ちしております。
よろしくお願いいたします。
[署名]
人事労務担当者へのワンポイントアドバイス
健康保険の被扶養者追加手続きは、従業員の状況によって必要書類が大きく変動するため、初動のヒアリングが非常に重要です。以下の点に留意して実務を進めてください。
「税法の扶養」と「社会保険の扶養」の混同に注意
従業員は「年収103万円の壁(税金)」と「年収130万円の壁(社会保険)」を混同していることが非常に多いです。税金は「その年の1月~12月の過去実績」で見ますが、社会保険は「扶養に入る日以降の未来の見込み収入」で判断します。退職して現在無収入であれば、過去にどれだけ稼いでいても扶養に入れることを、人事が正しく理解・案内することが大切です。
失業給付(失業保険)受給中の「扶養外れリスク」の周知
待期期間や給付制限期間中(無収入の期間)は扶養に入れますが、いざ給付金を受け取り始めた際、日額が3,612円(60歳以上等の場合は5,000円)以上の場合は、一時的に扶養から外す(国民健康保険等に切り替える)手続きが必要になります。これを従業員が忘れてしまい、後日「遡って扶養を取り消され、医療費を返還請求される」というトラブルが実務上頻発します。申請書回収時に受給予定が確認できた場合は、事前にこのリスクを強く注意喚起してください。
マイナンバーの厳格な取り扱い
メールの平文や、パスワードのかかっていないExcelファイルでマイナンバーをやり取りすることは、特定個人情報保護の観点から非常に危険です。「絶対にメールには書かないでください」と先回りして伝えることで、意図しない情報漏洩事故を防ぐことができます。クラウドの労務システムや、暗号化された専用経路、または書面の郵送など、社内規定に則った安全な方法で収集してください。
生成AIから扶養加入手続きに必要な添付書類と注意事項のアドバイスをもらう
従業員から「被扶養者追加申請書」が提出された後、その内容から「このケースでは何の添付書類が必要か?」を判定させます。高齢の親、別居、仕送りなど、判断に迷うケースで特に効果を発揮します。
ここでは、協会けんぽも加入する会社でGeminiを使った事例をご紹介します。
操作手順
サンプルは下記からダウンロードができます。
- 内容を記入した「被扶養者追加申請書」をGeminiにアップロード(入力欄の「+」ボタンから追加)して読み込ませます。
- 日本年金機構「家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」を印刷からPDFとして保存し、Geminiにアップロード(入力欄の「+」ボタンから追加)して読み込ませます。(ページのURLを貼り付けるでも問題ありません。)※PDFの方が回答の精度が高かったため

【プロンプト例】
あなたは、協会けんぽの被扶養者認定手続きに精通した’人事労務の専門家’として振る舞ってください。提供された情報に基づき、健康保険被扶養者(異動)届の提出に必要な添付書類を的確に案内してください。
#目的
ユーザーの状況に基づき、必要な書類(続柄確認書類、収入確認書類、仕送り証明など)を漏れなく特定する。
認定基準(130万円/180万円の壁など)や例外規定(海外居住、年齢別要件、令和7年以降の改正点)を分かりやすく解説する。
手続きをスムーズに進めるための実務的なアドバイスを提供する。
出力したアドバイスは必ず添付のPDFのどの部分に基づいているか根拠を示すこと
ルール:
1) 状況の聞き取り:
a)添付の「被扶養者追加申請書」の内容を確認してください。
b) 申請対象者の年齢、続柄、現在の収入形態(給与、年金、自営業、失業給付など)、および被保険者と同居しているか別居しているかを確認してください。
c) 扶養認定日(令和7年10月や令和8年4月など)によって要件が変わる点に注意し、時期に応じた案内を行ってください。
2) 書類の特定と説明:
a) ‘全員必須’の書類と’該当者のみ’の書類を明確に分けて提示してください。
b) 公的書類(住民票・戸籍)の有効期限が発行から90日以内であることや、コピー不可の条件を強調してください。
c) マイナンバーの記載や事業主の確認がある場合に省略できる書類(続柄確認や所得証明)を具体的に説明し、ユーザーの業務負担を軽減してください。
3) 専門家のアドバイス:
a) 収入に含まれる範囲(非課税の傷病手当金や年金も含む点)など、申請者が間違いやすいポイントを指摘してください。
b) 夫婦共同扶養の場合の年収判定基準や、別居時の仕送り証明の重要性など、人事労務の視点から実務的なTips(コツ)を提供してください。
#全体的なトーン:
誠実でプロフェッショナルなビジネス敬語を使用してください。
複雑な制度を整理して伝え、ユーザーが正確に申請準備を行えるよう導いてください。
ポイントとしては、最新の情報を取得するよう工夫することです。この例では日本年金機構の最新のホームベージをPDFで添付することでAIに最新の情報を見たうえで、かつPDFのどの部分を参考ししたかを回答するよう指示しています。
PDFではなく、URLを貼り付ける場合は「出力したアドバイスは必ず添付のPDFのどの部分に基づいているか根拠を示すこと」を「https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20141202.htmlを必ず確認すること」でも最新の情報の取得が可能です。
【AIの回答】
協会けんぽの被扶養者認定手続きについて、ご案内いたします。
1. 申請対象者の状況確認と認定基準
労務花子様(1990年3月1日生まれ、配偶者)を2026年4月1日付で被扶養者として追加する手続きとなります。現在は離職されており、失業給付の受給予定はなく、年収見込額は50万円です。被保険者の労務太郎様とは別居されています。
認定基準と例外規定について
- 収入要件: 被扶養者の年間収入が130万円未満であることが必要です。60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満という基準がありますが、花子様の年齢では130万円未満の要件が適用されます。今回の年収見込額50万円はこの基準を満たしています。
- 別居時の要件: 別居の場合、被扶養者の収入が被保険者からの仕送り額未満でなければなりません。
- 居住地要件: 日本国内に住所を有していることが原則です。例外として海外居住でも特例的に認定される場合がありますが、今回は東京都千代田区にお住まいのため、国内居住の要件を満たしています。
- 法改正による例外規定: 令和7年10月1日以降の認定で、19歳以上23歳未満の方の場合は年間収入の要件が「150万円未満」に変わりますが、花子様には該当しません。
2. 必要な添付書類
手続きにおいてご用意いただく書類は以下の通りです。公的書類(住民票や戸籍謄本など)は、提出日からさかのぼって90日以内に発行されたものを提出してください。
【全員必須の書類】
- 続柄確認のための書類: 住民票の写し(個人番号の記載がなく、コピー不可のもの)または戸籍謄(抄)本が必要です。
- ※省略条件: 今回はマイナンバーの提供があります。届書にマイナンバーを記載のうえ、事業主が続柄を確認した旨を届書に記載すれば、この書類は省略して実務負担を軽減できます。
- 収入要件確認のための書類: 離職を理由とする追加申請のため、「退職証明書」または「雇用保険被保険者離職票の写し」の添付が必要です。
【該当者のみ必須の書類】
- 仕送りの事実と仕送り額が確認できる書類: 別居されているため、送金者名、受取人名、およびその金額が確認できる書類(預金通帳等の写し、振込明細書など)が必要です。
3. 人事労務専門家からの実務的アドバイス
手続きをスムーズに進めるため、以下のポイントに特にご留意ください。
- 仕送り実績の形成が必須: 別居の場合、被扶養者の収入が「被保険者からの仕送り額未満」であることが認定の絶対条件です。現在「仕送りはまだしていない」状態とのことですが、花子様の年収見込額(50万円、月額換算で約4.1万円)以上の仕送りを開始し、その実績を客観的に証明できる通帳の写し等を準備してから申請を行う必要があります。手渡し等は証明が難しいため、必ず銀行振込等で記録を残してください。
- 収入に含まれる範囲にご注意: 今後、仮に健康保険の傷病手当金や出産手当金などを受給することになった場合、これら非課税の給付も被扶養者認定における「収入」に含まれます。失業保険の待機期間中であれば認定可能ですが、基本手当の支給が始まり日額3,612円以上となった場合は扶養削除の届出が必要となる点にご注意ください。
- 夫婦共同扶養の判定基準: 夫婦ともに収入がある場合は、年間収入の多い方の被扶養者として認定されます。今後、再就職等で状況が変わる場合はこの点も考慮して判断する必要があります。
- 令和8年4月以降の特例: 扶養認定日が2026年(令和8年)4月1日以降で、給与収入のみの場合は、労働契約内容(労働条件通知書等)と申立書によって年間収入の判定を行うことが可能になりました。今後の働き方によっては、この制度を利用してスムーズに手続きを進めることも視野に入れておいてください。
AIを実務で利用する際の注意点
AIを実務で利用する際は、以下の3つに注意して使用しましょう。
- 個人情報の保護
- 最終確認は人間が行う
- 法改正や最新制度のアップデートに注意する
個人情報の保護
無料版など一般的なAIサービスを利用する場合、従業員や家族の実名、生年月日、マイナンバー、基礎年金番号などの機密情報は、原則としてAIに入力してはいけません。「Aさん」などの仮名に置き換えるなどして対応しましょう。
ただし、入力データがAIの学習に利用されない法人向けプラン(エンタープライズ版)などを導入し、安全な環境が整っている場合は一定の保護が可能です。
日本経済団体連合会(経団連)が公表している「HR部門におけるAI等の活用に関する報告書」などのガイドラインを参考に、社内のデータ取り扱いルールやガバナンス体制を明確化し、安全性を重視した運用を行うことで、個人情報を含む書類の読み込み・判定も問題なく安全に実施することができます。
最終確認は人間が行う
AIの回答は100%完璧ではありません。もっともらしい嘘をつく「ハルシネーション」が発生する可能性があります。最終的な要件や必要な書類については、加入している健康保険組合の公式ルールや、日本年金機構の規定を必ず人事担当者・社労士自身の目で確認しましょう。
法改正や最新制度のアップデートに注意する
生成AIが保持している知識(学習データ)は、必ずしもリアルタイムの最新情報とは限りません。社会保険の適用拡大や「年収の壁」への対応など、頻繁に行われる法改正や制度変更が反映されていないケースがあります。
そのため、AIを活用する際は日本年金機構や厚生労働省などの公的機関が公表する最新情報を参照し、内容を確認することが重要です。
よくある質問(FAQ)
- 協会けんぽ以外の、独自の健康保険組合のルールにも対応できますか?
-
健康保険組合によって独自の添付書類(専用の仕送り証明書など)が求められる場合があります。その際は、プロンプトに「〇〇健康保険組合のルールに基づいて」と追加の指示を出すか、該当する組合のQ&Aページの文章をコピーして一緒に読み込ませることで、より正確な判定が可能になります。
- 従業員から手書きの申請書が提出された場合、AIで読み込めますか?
-
Geminiは画像認識(OCR機能)に優れているため、スマホ等で撮影した手書き書類の写真をアップロードして文字起こしや判定をさせることが可能です。ただし、個人情報のマスキング(付箋を貼って隠すなど)を必ず行った上でアップロードしてください。
まとめ
人事労務の担当者や社労士は、従業員または顧問先からの「家族を扶養に入れたい」という連絡を受けると、個別状況のヒアリングや必要書類の確認といった業務が発生します。
生成AIを活用すれば、申請を促す初期対応メールの作成から、複雑な条件に基づく必要書類の洗い出しや注意事項の自動判定までを効率化することができます。
ただし、実務利用にあたってはハルシネーションや法改正の未反映リスクに備えて必ず人間の目で最終確認を行うとともに、機密情報を扱う際は法人プランの利用やオプトアウト設定など、セキュリティ対策を徹底した上で安全に活用しましょう。

