同一労働同一賃金って結局どうすればいいんですか?
なんとなく対応してるんですが、あっているか不安です。
そんな悩みにお答えします。
ほとんどの企業が同一労働同一賃金が施行されてから、なんとか法律を解釈をして対応してきたと思います。
しかし「これで良いのだろうか」と腑に落ちず対応している企業も少なくないはず。
そこで今回は同一労働同一賃金への本質的な対応について社労士の立場で解説します。
この記事が人事労務担当者様のお役に立てれば幸いです。
同一労働同一賃金問題の短期的対応と中期的対応
同一労働同一賃金は「短期的対応」と「中期的対応」に分類できます。
「短期的対応」は緊急性が高く、「中長期的対応」はじっくり時間をかけて変える必要があるものです。
では、それぞれの対応について解説します。
緊急性が高い短期的対応
短期的対応が求められるものは以下の3点です。
- 各諸手当・福利厚生の格差対応
- 差異が不合理ではないと言える説明
- 非正規社員の賞与
それぞれを解説します。
各諸手当・福利厚生の格差対応
同一労働同一賃金において職務内容に直結した手当や、実費弁償である通勤手当、生活関連手当の家族手当などは、最も緊急性が高い項目です。
これらは不合理な差異がある理由が説明しにくく、多くの企業が対応しなければならない事項と考えられます。
差異がある場合は早急に対応が必要です。
差異が不合理ではないと言える説明
不合理な格差がある場合には「差異がある理由」を説明しなければなりません。
各諸手当や福利厚生など、一つ一つを説明できる準備が必要になります。
非正規社員の賞与
非正規社員の賞与は、可能であればいくらかの支給を検討したいところです。
そもそも賞与は「業務に対する貢献度に応じた報酬」であり、非正規社員も少なからず業務には貢献していると考えられます。
コストの増加も懸念されますが、同一労働同一賃金においては対応せざるを得ない状況になっていることは確かです。
中長期的に進めたい本質的対応
同一労働同一賃金の本質は「人事制度」です。
人事制度とは役割や期待、業務のレベルの高さなどを規定にして伝えていく制度。
特に評価制度や等級制度は各従業員に求める責任の大きさを説明するものです。
人事制度の整備は同一労働同一賃金の本質的対応といってもいいでしょう。
また人事制度に絡めて次の2点の整備が必要になります。
- 非正規社員の登用制度
- 高齢者雇用制度
非正規社員の登用制度
非正規社員は、無期転換と絡めた登用制度や限定社員制度を構築することで処遇の改善を図る必要性があります。
たとえば「転勤をしたくない」という理由だけで非正規社員で働き続けている人に対しての処遇です。
おそらく非正規社員でも勤続5年以上であれば正社員と同等な働き方になっている従業員もいるでしょう。
そうした従業員に対して「無期転換」や「限定社員」などに転換することで、一定の手当がもらえる対象にすることも必要となります。
高齢者雇用制度
今後、定年は70歳となり、企業の人件費はますます増加します。
同一労働同一賃金は高齢者にも適用されることから、現役世代の賃金を高齢者に分配しなければ人件費の問題はクリアされません。
しかし現役世代の賃金を下げてしまうと「離職率が増加する」可能性もあります。
そこで「人事制度の改定」です。
人事制度で処遇をハッキリと分け、求める仕事と賃金を一致させるよう改定すれば、成果に合わせた賃金の分配が可能になります。
今後の高齢者雇用の重要性(法令面・人材確保面)を鑑み、現役世代も含めた人事労務管理の仕組みを構築する必要があります。
終身雇用・年功序列の崩壊を見ても人事制度は徐々に変えていく必要があります。
年齢に関係なく成果を上げた人が評価される仕組みが必要になってくるでしょう。
同一労働同一賃金の不合理性の判断基準
同一労働同一賃金の不合理性の判断基準は法律や判例を見ていかなければなりません。
ここからはそれぞれの判断材料となるポイントをいくつかご紹介します。
パート・有期労働法8条(不合理な待遇の禁止)
以下、パート・有期労働法8条の条文です。
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者(正社員)の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の
①業務の内容及び
②当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)
③当該職務の内容及び配置の変更の範囲
④その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
①~④がいわゆる「4要素」と言われるものです。法律ではこの「4要素」に不合理性があってはならないとしています。
また④の「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの」とは「通勤手当」などです。
通勤手当は職種によって変わるものではありません。
家族手当もそうです。正社員だけが家族の生活を支えているわけではありません。
このように手当が目的に合って支給されているかが同一労働同一賃金の見極めるポイントになります。
- 原則として基本給や賞与など、それぞれの労働条件を個別に比較する
- 比較対象となる労働条件は「賃金」だけでなく、教育訓練、福利厚生施設、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等のすべての待遇が含まれる。
- 社内の正規・非正規間の不合理な待遇の相違を禁止しているのであって、合理的な処遇までを求めている訳ではない。
ハマキョウレックス事件最高裁判決に見る不合理性
ハマキョウレックス事件は有期契約社員のドライバーが、職務内容が同じ正社員のドライバーとの間で各種手当について差があるのは不合理であるとして、その差額を請求した事案です。
結果は以下の通りです。
1. 同社は東証一部上場企業であり、正社員は出向を含む全国規模の異動の可能性があった。
2.最高裁では6つの手当について判断がなされたが、以下の5つの手当について、正社員と契約社員の差を不合理としている。
① 無事故手当
② 作業手当
③ 給食手当
④ 皆勤手当
⑤ 通勤手当
3.一方「住宅手当」については不合理ではない。
なぜなら契約社員は、転居を伴う配転が予定されていないのに対して、正社員については転居を伴う配転が予定され、住宅に要する費用が多額となり得るから。
上記の不合理性の判断においては
- 手当の性質・目的
- 4要素の検討
という順番で検証することを示しています。
不合理性の判断は
- 手当の性質・目的
- 4要素の検討
上記の順番で検証することが重要。様々な処遇の検証を行う際の基本的な考え方となる。
パート・有期労働法9条(均等待遇)
以下、パート・有期労働法9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)の条文です。
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
つまり「4要素がすべて同じなら正社員と差別してはダメです」と言っています。
職務の内容が正社員と同一の有期雇用労働者がいる場合は
正社員にしてやってください。もしくは差を明確にしてください。
これだけです。
特に中小企業だと差別化されないことも多いので、職務の内容で差異がある理由を説明できるようにしましょう。
- 雇用関係終了までの全期間において、4要素のすべてが同じ場合(要は正社員と実質一緒)には均等待遇が求められる。
- 通常このような事例はあまり想定されないが、中小企業の場合は「職務の内容・配置の変更の範囲(転勤・職種転換)」に差異がないことが多いので、職務の内容で意識的に差異を説明できるようにしておく必要がある。
ちなみに説明については口頭で問題ありません。(パート・有休労働法14条2項)
厚生労働省で「説明書のモデル形式」が公表されていますが、必ずしも作る必要はないです。
均等・均衡待遇に関する最高裁判例のポイント
続いて、同一労働同一賃金の判例を見ながら均等待遇のポイントを解説します。
長澤運輸事件
長澤運輸事件は精勤手当と時間手当が不合理となった判例です。
運送会社で働く定年後に再雇用された嘱託社員(有期雇用労働者)の乗務員が、職務の内容が同一である正社員(通常の労働者)の乗務員との間に待遇差を設けるのは無効であると訴えた。
最高裁は、労働条件の各項目を個別に判断した上で、この定年再雇用者の取り扱いを許容した。
【理由】
① 定年退職後に再雇用された者であること
② 定年退職に当たり退職金の支給を受けていること
③ 老齢厚生年金の支給を受けることが予定されること
④ 労働組合との交渉を経て、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間、月額2万円の調整給の支給を受けること
⑤ 年収は定年退職前の79%程度であり、会社の賃金体系は収入の安定に配慮しながら労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫された内容になっていること
日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件
日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件は扶養手当(家族手当)や年末年始手当などについて不合理とされた判例です。
通常の労働者(正社員)と有期雇用労働者(嘱託社員)の各種手当に関する待遇の違いが不合理か否かが争われた事件の最高裁判決。
各種手当や休暇等について、郵便業務等に従事する通常の労働者(正社員)には付与し、職務の内容等に相応の相違がある有期雇用労働者(契約社員)には付与しないことが不合理か否か争われた。
中でも扶養手当や年末年始勤務手当などの対応が注目を集めました。
大阪医科薬科大学事件
大阪医科薬科大学事件は「アルバイトには賞与を支払わなくてよい」となった珍しい判例です。
理由は、アルバイトと正社員の業務が全く違ったためです。
詳細を見ていきましょう。
賞与及び私傷者病による欠勤中の賃金について、通常の労働者(教室事務員である正職員)には支給し、有期雇用労働者(教室事務アルバイト職員)には支給しないことが不合理か否か争われた。
原審である大阪高裁では、業績や人事評価に連動せず、一律で支給される賞与についてはより均衡が求められるとし、正職員の6割の支給を命じていた。
■アルバイト職員
【業務の内容】
以下のような定型的で簡便な作業が中心。
- 教員等のスケジュール管理や日程調整
- 電話や来客等の対応
- 教授の研究発表の際の資料作成や準備
- 教授が外出する際の随行
- 教室内における各種事務
など
【配置の変更の範囲】
原則として業務命令によって他の部署に配置転換されることはなく、人事異動は例外的かつ個別的な事情によるものに限られていた。
■正社員
【業務の内容】
定型的で簡便な作業等ではない業務
- 学内の英文学術誌の編集事務等
- 病理解剖に関する遺族等への対応
- 部門間の連携を要する業務
- 毒劇物等の試薬の管理業務等
など
【配置の変更の範囲】
出向や配置換え等を命ぜられることがあると定められ、人材育成を目的とした人事異動が行われていた。
【その他の事情】
アルバイト職員から契約職員、契約職員から正職員への試験による登用制度が設けられていた。
以上のことから格差が明確であり、自らの努力で正社員登用もあることから賞与不支給は不合理ではないと判断されました。
各手当・賞与・退職金の方向性とポイント
ここからは同一労働同一賃金においての各手当や賞与、退職金の対応について解説します。
家族手当の対応
家族手当(扶養手当)の対応は以下の裁判例が参考になります。
【日本郵便(大阪)事件 最判R2.10.15】
継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給するものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。
もっとも、上記目的に照らせば本件契約社員についても、扶養親族があり、かつ相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。
つまり、家族手当は目的の趣旨から言って契約社員に支給しない理由にはならないと言っています。
このような処遇に対応するために、やはり人事制度の見直しも検討しなければいけません。
- 家族手当の趣旨からすれば4要素はいずれも関係がなく、考慮されない。
- 相応に継続的な勤務が見込まれる場合には、非正規社員との差異は不合理とされるため、対応が必要。
「相応に継続的な勤務」とは
では「相応に継続的な勤務」とはどのくらいを指すのか。
結論、5年が目安です。
理由は判例にあります。
【日本郵便(大阪)事件 最判R2.10.15】
・原告は通算契約期間が5年を超える者が多くいた
【大阪医科薬科大学事件 最判R2.10.13】
・5年が更新上限とされていたアルバイト職員の事件である
上記を踏まえた上で、契約期間が5年を超える段階で準社員や限定社員として登用し、家族手当を支給する形が一番スムーズではないかと考えられます。
住宅手当の対応
住宅手当は「転勤があるかないか」です。
ハマキョウレックス事件は正社員に転勤があったことで住宅手当のみが「不合理ではない」との判決がなされました。
もし転勤がないのにも関わらず、正社員のみ住宅手当を支給するような場合は、同一労働同一賃金からみて不合理だと言わざるを得ないということです。
通勤手当の対応
基本的には通勤手当に差を設けることはアウトとして考えましょう。
ただ100%アウトかというと、そうではありません。
厚生労働省のガイドラインにはこう書かれています。
店舗の採用である労働者に対して店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定して支給している場合。
本人の都合で通勤手当の上限の額では通うことができないところへ転居しても、なお通い続けている場合には、上限の額の範囲内で通勤手当を支給して問題ない。
としています。
つまり近隣の採用しかしていないのに、本人の都合で引っ越した場合は上限の交通費だけでOKということです。
特定の業務に従事した際に支給される手当
「危険作業手当」や「高所作業手当」など、特定業務の際に支給される手当に差を設けることは原則NGです。
同じ危険な作業をしているのに正社員と非正規社員に差をつけることは不合理と言わざるを得ません。
もし現状で差がある場合は早急に対応が必要です。
賞与の対応
賞与に関しては「大阪医科薬科大学事件」で正社員と非正規社員で相当な業務の格差があれば支給は必要ないとされました。
しかし基本的に賞与は非正規社員にも支給するべきだと考えられます。なぜなら賞与は半年ごとに業績に応じて支払われるインセンティブだからです。
会社の業績にパート・アルバイトは「一切貢献していないと言えるか」という話になります。
答えはノーですよね。
正社員ほどではないにしても、少額でも支払うことが望ましいと考えています。
ただ人件費のコスト増にもなるので懸念されるのは確かです。
賞与についても格差が説明できるよう、しっかりとした人事制度の構築が同一労働同一賃金で求められています。
退職金の対応
退職金はメトロコマース事件において
「職務の内容等が実質的に異ならないような場合には、両者の間に退職金の支給に係る労働条件の相違を設けることが不合理と認められるものに当たると判断されることはあり得る」
としてます。(メトロコマース事件は退職金不支給で決着)
つまり「労働条件が同じなら非正規社員でも退職金を支給しなさい」ということです。
長期勤続の非正規社員が存在する場合には、退職金制度とは別枠で退職慰労金のような一時金制度を設け、支給ゼロではない状態は作っておきたい。
退職金は各手当や賞与より優先順位が低めと考えていいと思います
福利厚生その他
福利厚生は「できるだけ合わせてください」と提言しておきます。
「できるだけ」というのは、短時間で働いている従業員にすべての福利厚生を支給する必要はないためです。
一方で夏季休暇・年末年始休暇、慶弔休暇などは臨時的な従業員以外は合わせていく方向で考えましょう。
また所定労働日数や職責の違いによって付与日数に差をつけるなどの検討も必要です。
まとめ
同一労働同一賃金をまとめると「同等な扱いをしましょう」ということです。
要は従業員が「気持ちよく働ければ良い」のです。「なんであの人にあって私にはないの?」と思われたら、説明不足か不合理な状況と判断しましょう。
会社では社内報一つ取っても争いがおきます。
社内報に「〇月の誕生日の人」と掲載するのは正社員だけという状況。これは非正規社員からしてみれば気持ち良くはありません。
法律に社内報は関係ありませんが、同一労働同一賃金の本質は同じです。
将来的には人事制度をしっかり構築して、従業員の格差がなくなる労働環境を整備していきましょう。
以上、参考になれば幸いです。