算定基礎届がわかりません。自分のやり方があっているか毎年不安です。
そんな悩みにお答えします。
毎年、通常の手続きですら忘れてしまう「算定基礎届」の作成。イレギュラーが起きた際には、尚更わからないと悩んでいませんか。
算定基礎届は、社会保険手続きの中でも多くの労務担当者が苦労している業務の一つです。
そこで今回は、算定基礎届に関する疑問をQ&A方式で詳しく解説します。
算定基礎届の基本的なポイント
まずは算定基礎届の基本的なポイントを押さえておきましょう。
算定基礎届の主なポイントは以下の5つです。
- 賃金は支払月ベース
- 支払基礎日数は締月ベース
- 時給・日給は出勤日数、月給は暦日
- 算定基礎届の提出が不要な従業員
- 対象となる報酬
それぞれのポイントを詳しく解説します。
賃金は支払月ベース
算定基礎届は「支払月ベース」で賃金を計算するため、「当月締め翌月払い」または「残業代だけ翌月払い」としている会社であっても支払った月の合計賃金を記載します。
たとえば、3月25日締め4月10日払いで支払っている賃金は、4月分として記入するということです。
また、残業代のみが翌月払いの場合は、「4月分の基本給・諸手当+3月分の残業代」が算定基礎届の4月の賃金となります。
出典:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
支払基礎日数は締月ベース
支払基礎日数は締月ベースで記入します。そのため、当月締め翌月支払いの場合は、締日の月を基準に基礎日数を記入します。
たとえば、3月25日締めで4月10日払いの場合、4月に記入する支払基礎日数は3月分となります。つまり、その月の給与支払の基礎となった日数ということです。
たとえば、月給の従業員の場合、欠勤がなければ暦日を記入するため、4月は「31日」になります。
時給・日給は出勤日数、月給は暦日
支払基礎日数は基本的に以下のようにカウントします。
- 時給・日給:出勤日数(有給休暇含む)
- 月給:暦日
時給・日給は出勤日数を支払基礎日数としてカウントします。また、有給休暇は出勤はしていませんが、賃金が支払われているため、支払基礎日数としてカウントが必要です。
一方、月給は欠勤控除がない限り暦日で記入します。ただし、欠勤した場合に給与から欠勤控除されている場合は、その月(締月ベース)の所定労働日数から欠勤日数分を引いた日数が支払基礎日数となります。
出典:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
算定基礎届の提出が不要な従業員
算定基礎届の提出が不要な従業員は以下のとおりです。
- 6月1日以降に資格取得した方
- 6月30日以前に退職した方
- 7月改定の月額変更届を提出する方
- 8月または9月に随時改定が予定されている旨の申出を行った方
上記に該当する方の分は算定基礎届を作成する必要はありません。
しかし、実務担当者からすると「8月または9月に随時改定が予定されている旨の申出を行った方」の対応が悩むでしょう。
8月または9月に随時改定が予定されている旨の申出を行った方とは、「会社の判断で算定基礎届を提出しなくてもいいよ」ということです。
もし、算定基礎届を提出しなかった場合に随時改定の要件に該当しないことが判明した場合は、速やかに算定基礎届を提出しなければなりません。
一方、8月または9月に随時改定が予定されている場合でも、算定基礎届は提出してもかまいません。
もし、算定基礎届を提出した場合は、7月や8月給与確定後に随時改定に該当した場合は速やかに月額変更届を提出する必要があります。
実務上は8月・9月に随時改定が予定される人も含めて算定基礎届を出した方が届出漏れが起きにくいと思います。随時改定が起きなかったことを判断する方が大変ですので…。
出典:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
対象となる報酬
算定基礎届の対象となる報酬(賃金)は以下のとおりです。
賞与など、年3回以下で支給されるものは算定基礎届に含めません。また、慶弔費や傷病手当金など、労働の対価となっていない賃金も対象外となります。
なお、社宅使用料については現物支給として報酬に加算する場合があるため、注意が必要です。社宅の対応については下記で詳しく解説しています。
通勤定期券は、通勤定期券そのものを渡していなければ現物給与になりません。通勤定期代を通勤手当として支給している場合は賃金に含めます。
出典:日本年金機構「よくある質問」
出典:日本年金機構「標準報酬月額の対象となる報酬に、通勤手当は含まれるのですか。」
算定基礎届Q&A
これから算定基礎届について解説していきますが、目次をクリックすれば疑問に思っている項目に飛ぶことができます。
時間のない方は目次をご活用ください。
Q1.時間外手当だけが翌月払いの場合は前月に戻して修正が必要ですか?
時間外手当は修正しなくて大丈夫です。
算定は原則、支払いベースで考えますので、実際に支払のあった月をその月の報酬とします。
たとえば、3月分の時間外手当が50,000円、4月の基本給が200,000円で4月25日にあわせて250,000円支払われた場合、算定基礎届の4月には250,000円と記入します。
Q2.当月の欠勤分を翌月の給与でマイナスしてる場合は前月に戻して修正が必要ですか?
欠勤控除の修正は必要ありません。
時間外手当同様、実際に支払のあった月をその月の報酬として考えます。
例えば、5月分の欠勤控除を6月でマイナス支給してる場合は、5月に戻さず、6月の給与がマイナスされた状態でそのまま算定届を作成してください。
月給:250,000円のみ
5月分の欠勤控除10,000円を6月給与で控除している場合
・4月250,000円
・5月250,000円
・6月240,000円
欠勤10,000円を戻さずそのままの状態で作成
Q3.欠勤があったときの支払基礎日数の引き方がわりません
月給制で欠勤控除している場合は、就業規則に基づき定められた「所定労働日数」-「欠勤日数」=「支払基礎日数」となります。
当月締当月払い
5月に3日欠勤し、5月給与から3日分の欠勤控除をしている場合、5月の所定労働日数が18日だとしたら「18日-3日=15日」となります。
※就業規則で欠勤控除を平均所定労働日数をもとに控除している場合は「平均所定労働日数−欠勤日数」です。
当月締翌月払い
5月に3日欠勤し、6月給与から3日分の欠勤控除をしている場合、5月の所定労働日数が22日だとしたら「22日-3日=19日」となります。さらに、6月に賃金を支給していることから、6月の支払基礎日数が19日になります。
※就業規則で欠勤控除を平均所定労働日数をもとに控除している場合は「平均所定労働日数−欠勤日数」です。
欠勤があり、かつ休日出勤がある場合は、所定労働日数-欠勤日数+休日出勤日数」になります
Q4.通勤手当の精算があった場合はどうやって修正するんですか?
精算対象月に戻して修正計算します。
もし3月に引っ越しがあり、その通勤手当の精算分を4月の給与で行った場合は、4月から精算分の金額を除いて計算します。
3月20日に引越した従業員の通勤手当精算額が3,000円で、4月給与で+3,000円をして精算をした場合。
4月の報酬から3,000円を引いて算定基礎届を作成します。
Q5.通勤手当(定期券)の端数はどう処理すればいいですか?
1円未満の端数が出る場合は端数を切り捨てます。
3月に4月~9月分の6ヵ月定期代42,340円を支給
42,340円÷6=7056.66…円
4月:7,056円
5月:7,056円
6月:7,056円
出典:日本年金機構「疑義照会回答(厚生年金保険 適用)」
Q6.4月にパートから正社員になって翌月払いから当月払いに変わりました。4月の給料が2回発生する場合どうしたらいいですか?
4月から正社員になっていますので、正社員のみの給与で算定を行います。
パート分150,000円、正社員分250,000円合わせて400,000円を4月25日の給与で支給した場合。
算定基礎届においては、正社員分の250,000円を4月の報酬として計算します。
Q7.パートから正社員になった場合の基礎日数はどうなりますか?
パートの時はパートの、正社員の時は正社員の基礎日数で作成します。
パートが5月から正社員になった場合
4月:21日(労働日数)
5月:31日(暦日)
6月:30日(暦日)
となります。
また、パートから正社員になった場合は、ほとんどが月変(随時改定)になりますので、算定で届け出たとしても実際は算定で計算されません。
例えば、5月に正社員になった場合は、8月の月変となり、6月に正社員になった場合は9月月変となります。
Q8.5月10日から産休に入って無給になった場合、どうやって計算するんですか?
4月のみ算定の対象となり、5月、6月は算定の対象外となります。
5月10日から産休(当月締め・当月支給)
4月:250,000円(30日)
5月:120,000円(10日)
6月:0円(0日)
算定基礎届:4月のみの250,000円で提出
なお、届出作成の際は、備考欄に「5月10日から産前休暇」と明記すると良いです。
産休や育休、長期欠勤中の算定基礎届の書き方は下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
Q9.休職中で全く給与の支払いがないのですが、算定基礎届は提出しないといけませんか?
全く給与の支払いがない従業員でも算定基礎届の提出は必要です。
下記の例を参考に備考欄のその他の項目に「○月○日から休職」と書いて提出しましょう。
Q10.4月1日に入社した社員について、4月の給与は1ヶ月分の給与が支給されません。
毎月20日締め、月末払いのため、支払基礎日数が17日以上ありますが、4月は算定の対象月となりますか?
4月を除いて算定基礎届を作成します。
なお、算定基礎届を提出する際は、「総計」欄から4月の報酬月額を除いた金額により算出した平均額を、「修正平均額」欄に記入した上で、「備考」欄の「4.途中入社」及び「9.その他」に〇を付し、カッコ内に「資格取得年月日」を記入してください。
Q11.社宅に住んでる従業員がいる場合、現物給与になるんですか?
会社が借り上げた社宅や寮などに従業員を住ませている場合は通貨に換算して、算定基礎届に記載しないといけません。
社宅については畳1畳当たりの価額が設定されていて、部屋に畳を敷いていない場合は1.65平方メートルを1畳として計算します。
また、価額を算出する場合は、居間、茶の間、寝室、客間等、居住用の部分のみが対象になります。台所、トイレ、浴室、玄関、廊下などは含めません。
1畳当たりの単価や計算方法については日本年金機構が公表している全国現物給与価額一覧表を参考に計算します。
社宅の現物給与については下記の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
Q12.3月の昇給分が4月に支給されてた場合はどうすればいいですか?
3月以前の昇給差額を4月~6月に支給した場合は、3月以前の昇給分を除いて算出します。
Q13.休業手当が支払われた場合はどうすればいいですか?
休業手当が支払われた場合は、休業手当を含めて算定します。
また休業手当を支払った日は、たとえ従業員が出勤していなくても「出勤扱い」になります。(有休と同じ考えです)
ただし7月1日時点で休業が解消しているかどうかで計算式が変わってきます。
・7月1日時点で休業が解消している:通常月のみで計算
・7月1日時点で休業が解消してない:休業手当を含めて計算
Q14.算定基礎届の提出後にミスを発見した時はどうすればいいですか?
算定基礎届の「訂正届」を作成して訂正が必要です。
訂正方法は、算定基礎届の用紙の上に「訂正」と記入し、間違えた欄を2段書きして、上段に正しい金額を「黒」で書き、下段に間違った金額を「赤」で書きます。
場合によっては、賃金台帳など添付書類を求められる可能性があるため、年金事務所や健康保険組合に問い合わせてから訂正しましょう。
まとめ
算定基礎届は、従業員の数だけパターンがあり毎年担当者を悩ます手続きです。
この記事で紹介したものは、ほんの一部の事例です。今後イレギュラーは事例が発生した際は、年金事務などに問い合わせて対応しましょう。
ご担当者様のお役に立てると幸いです。
社会保険や給与計算をミスした時にどう対処していいのかが事細かに書かれています。
実務経験豊富な著者の実体験をもとに書かれているので、参考になります。
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